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コラム

それぞれのお気に入りの場所
2025.7.19

 私たちの社屋が新しくなってから、1年と半年ほどが経ちました。毎日ここで過ごす中で、建物と庭と、そして自然との距離の近さを、日に日に実感しています。

 なかでも私が特に気に入っているのが、濡れ縁です。
社屋の庭に面して設けられた濡れ縁に腰掛けると、すぐ目の前には季節の移ろいが感じられる植栽が広がっています。春には芽吹き始めた新緑がやさしい風に揺れ、夏になると緑はますます深まり、生命力にあふれた景色を見せてくれます。秋には紅葉が鮮やかに色づき、冬には静かに積もる雪が、庭をやさしく包み込む。一年を通して、その時々の「美しさ」にふれることができるこの場所は、私にも大切な時間をくれる場所です。

雨の日には濡れ縁から庭を眺めていると、濡れた葉の色がいっそう深くなり、緑の輪郭がくっきりと浮かび上がって見えます。庭の一角に設けられた鎖樋をつたって落ちる雨水。その音もまた心地よくて、静けさの中にやわらかなリズムを添えてくれます。
こんなふうに、ただ座って外を眺めているだけでも、自然と心が落ち着き、深呼吸したくなるような時間が流れているのです。

 冬のある日、庭に雪が積もった朝がありました。木々の枝にうっすらと雪が降り積もり、社屋の中から眺める景色は、まるで一枚の絵のようでした。障子ごしに射し込む光が、室内にやさしい陰影をつくり出し、冷えた空気の中で太陽のぬくもりをよりいっそう強く感じました。こうした一つひとつの瞬間が、日常のなかにある「ほっとする」時間をつくってくれているのだと思います。

 昼休みには、スタッフと一緒に濡れ縁に腰掛け、お弁当を食べることもあります。空を見上げたり、風に揺れる緑を眺めたりしながら、他愛のない話をする時間。特別なことをしなくても、こんなふうに誰かと空間を共有できることが、こんなにも心地よいのかと、あらためて感じることがあります。
空間の力って、そういうところにあるのかもしれません。

この社屋での暮らしを通して思うのは、「建築は暮らしの器である」と同時に、「心を整える場所」でもあるということ。お気に入りの場所がひとつあるだけで、毎日の気持ちの持ちようが変わる。
自然のうつろいを感じられる居場所があるだけで、何気ない一日が、少し豊かなものに感じられる。

だからこそ、私たちがお客様の住まいを設計するときにも、「どこで過ごしたいか」「何を感じたいか」「どんな時間を大切にしたいか」ということを丁寧に汲み取りながら、一つひとつの空間に向き合っていきたいと思っています。

「この窓から見える景色が好き」
「この場所で家族と過ごす時間がいちばん好き」
「ここに座って季節の変化を感じるのが楽しみ」

そんなふうに感じられる場所が、暮らしの中にひとつでもあれば、きっとその家は、住む人にとってかけがえのない場所になる。
これからも、そんな空間を届けていけるように、日々の体験を大切にしながら家づくりと向き合っていきたいと思います。

Yanagi

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