コラム
地元静岡県にある秋野不矩美術館を訪れました。
美術館は丘を登った先に、静かに佇んでいます。
訪れたのは雨の日。藁葺き屋根に落ちる雨音がやわらかく響き、
辺り一帯が心地よい静けさを纏っていました。

秋野不矩さんは静岡県出身の日本画家で、京都での制作や教育にも携わりながら活動されていました。日本の風景や旅の記憶をもとにした、静かで力強い作品を描いた人物です。
美術館の設計を手がけたのは藤森照信さん。建物には地元の素材が使われていて、外壁には天竜杉、そしてその土地の土が塗り込められているそうです。どこか素朴で力強く、それでいてやさしさを感じる佇まいは、作品の雰囲気とも重なって見えました。
この美術館は、靴を脱いで進んでいくというはじめての体験でした。日本画を展示されている美術館ならではの日本らしさを感じました。第1展示室に入ると、床には藤ござが敷かれていて、足裏に伝わる心地よい感触が印象的でした。そのまま床に座って作品を眺めていると、時間の流れがゆるやかになり、作品の世界へと自然に引き込まれていきました。
奥に進むと、第2展示室が現れます。こちらは一転して、白く明るい空間。高い天井の上から差し込む光が壁や床にやわらかく反射して、空間全体を包み込んでいました。特別に照らしているわけではないのに、作品が自然と浮かび上がるように見えました。

床の下には空間があり、秋野不矩さんと藤森さんが天竜川で拾った石が埋められているそうです。この場所に2人の想いが残されているのだなと感じ、パワーをもらえた気がしました。
華やかさや強い演出があるわけではありませんが、素材や光、空間のつくり方によって、こんなにも心地よい体験が生まれるのだと感じました。
この建築は作品と共に、秋野不矩さんの想いを受け継いでくれています。これから先もここを訪れる人々が、そこに宿る想いに触れ、心温まるのだろうと思うと、「絵」も「建築」も、時代を越えて人と人とをつないでいく素晴らしい存在だと改めて感じました。
この美術館は秋野不矩さんと藤森さんおふたりの想いが重なり合って生まれた場所なのだと思います。

家づくりにおいても、お客さまとの対話を大切にし、想いを共有しながら心を込めて設計することで、その想いはかたちとなり、どこかに静かに残り続けていくのだと感じました。
tsutsui
